患者さんから、「あなたは腎臓が悪いから運動しないで下さいね」とお医者さんから言われた、ということを耳にします。
2010年前半くらいまでは腎不全がある場合は、「安静にすることが治療になる」と考えられており、患者さんは出来るだけ安静にするように言われていました。
今は、腎臓が悪い方の運動不足は寿命を短くしてしまうことが考えられています(ただし、尿蛋白が漏れるネフローゼ症候群などはまた別の病態ですので、ここでいう腎臓が悪いということは慢性腎不全を指します)。
気になる運動と尿蛋白の関係ですが、運動直後は一過性に尿蛋白が増えるが、運動後は安静時レベルにまで回復するという報告があります。
少しそれますが、肥満は腎症と関連が深く、肥満関連腎症(ORG:Obesity-related glomerulopathy)という疾患概念もあります。肥満の患者さんは腎生検がやや難しく(皮下脂肪が厚いと検査がやりにくい)、腎生検がなかなか行われないという背景もありますが、肥満の患者さんで尿蛋白が検出されている方では糸球体(浄化装置)肥大していたり、糸球体が硬くなったりすることがあります。そういった患者さんでは運動不足を解消し、食事療法を行うことで、腎臓への負担を軽減することができます。
肥満関連腎症ではなくて、IgA腎症などのその他の腎症であっても、肥満の方では糸球体肥大を認める方もいたり、肥満自体が腎臓に負担をかけていることになっていると考えられます(当院では肥満の患者さんでも腎生検をしっかり行うようにしており、データでもそのように出ています)。
運動を行うことで、肥満の解消にもつながればと思います(もちろん食事も重要ですが)。
どれくらいの「強度」で運動するかということが問題になってきます。
何でもかんでもやればいいという訳ではありません。
運動といっても、5分くらいの散歩から30分くらいの散歩、ボウリング、ゴルフ、サイクリング、テニス、ランニング(もちろんその速度によっても異なる)、水泳、ウェイトトレーニングなどなど、その強度(体への負荷)や時間も人によってさまざま違うと思います。
・CKD ステージ3までは原則として、通常運動が可能
・CKD ステージ4:体力を維持する程度の運動
・CKD ステージ5:原則として軽い運動
となっています。でも抽象的で分かりにくいということになります。
「運動強度はメッツ」 としてあらわされます。
メッツで表した場合の運動強度としては
CKDステージ1-2:5-6メッツ以下
CKDステージ3:4-5メッツ以下
CKDステージ4-5:3-4メッツ以下
メッツ表についてはネットで分かりやすい表になっているページがありましたのでご紹介しておきますhttps://club.panasonic.jp/diet/exercise/mets/index_3metsdiet.html
CKD4-5でも、卓球や軽いバレーボール、社交ダンス、ゴルフなどは出来るということになります。
基本的に、自分の体重よりも重いような重さのベンチプレス(1~2回くらいしか持ち上げられないくらいの強度)を行う訳ではないのであれば、常識的範囲内の運動は全て可能でないかと思われます。
またサルコペニアやフレイルなどの項目でお話することになりますが、
体力がある人はeGFRが低下していても尿毒症の症状が出にくい印象があります。
即ち、体力が低下しすぎると、それが尿毒症による症状なのかサルコペニア(体力低下や筋力低下→意欲低下や食欲低下)が進んでしまって出ている症状なのか分からなくなり、透析導入が早くなってしまうことがあります
CKDステージ5の方で極端にだるそうにしていれば、それを見た医者は透析を明日にでも行った方がよいと判断してしまうかもしれません。
蛋白制限をしすぎたり、運動を過度に制限しすぎて、体力が低下し、それが逆効果となり、実は透析が早まってしまうという可能性があります。
過度な蛋白制限→筋力の過度な低下→実は透析を早めている可能性がある
透析になったタイミングで寝たきりに近い状態になっては人生の意味が半減してしまいます。
透析になる期間が僅かに伸びただけで、結局、寝たきりに近い状態で透析になってしまうのが一番悲惨なことかもしれません。
何事もバランスが重要かと思います。
このページは適宜加筆していく予定です。
コメントを残す