Graft in Vein法のその後の検討(透析用人工血管)

以前に人工血管を用いたシャントの寿命を延ばすための方法としてGraft in vein(GIV)法を紹介しました。

2019年6月30日に行われた、第64回日本透析医学会学術集会・総会にてGIV法の現時点での成績およびその後の問題点(狭窄パターン)、使用すべき人工血管考察について発表しました。

今回は、その内容についてのサマリーを公開します。

①まずは、GIV法によるグラフト移植術の一次開存率をお示しします。

GIV法の一次開存率(観察期間中央値16か月)

従来法と比較した曲線ではありませんが、GIV法で行った例についてはかなり良い成績であると考えられます。

もちろん、5mmの人工血管を挿入できるくらいの静脈だから太いから成績が良いのだろうという考え方もできますが、当院での症例は一見して人工血管を挿入できなさそうな静脈に挿入しており、大半が挿入するのにそれなりの工夫と苦労をしております。

学会でも説明しましたが、いずれにせよ人工血管の出口は静脈自体もしくは人工血管のどちらかが狭窄し、通常の接続では高率に静脈側が狭窄してしまいます。静脈側が狭窄してしまった場合は、高頻度のPTAに陥っていくことが大半であることを考慮すると、出来るだけGIV法をトライするということが必要であると考えています。

人工血管内部の狭窄は容易に対処できますし、一度のPTA後も比較的長い開存が得られます。それは何故かといいますと、

人工血管は血管収縮パターンの狭窄を起こさないからです。

②GIV法による狭窄パターン

観察期間の中央値16か月となっており、PTAを施行した患者さんは9例/35例(25.7%)となっています。

狭窄パターンとしては、8例が静脈吻合部側の狭窄です。

ほぼ全てが静脈側の狭窄ということになります。

③使用する人工血管タイプの推奨

現在の狭窄パターンの解析では、

 5mm – ePTFE ストレートタイプの使用を推奨

しています。

6mm-4mmのテーパードタイプのePTFEを通常とは逆の接続、すなわち、6mm側を動脈側、4mm側を静脈側とし、4mm側を静脈に挿入するGraft inclusion technique という方法で行うことを推奨する発表が2018年広島で開催されたアクセス研究会で2つありました(シンポジウムにもなっておりました)。

しかし、当院でのGIV法の狭窄パターンの解析や流体力学的観点からは、出口部の流速が上昇してしまうことによるずり応力の増加が考えられ、狭窄を助長してしまう可能性があると考えます。

また、出口が4mmであることにより、PTAとなった際に使用できるバルーンのサイズが5mm出口と比較してワンサイズ小さくなってしまうこともデメリットであると考えられます。

加えて、2mmの狭窄をPTAの適応としますと、4mm⇒2mmと5mm⇒2mmでは狭窄までの余力に大きな違いがあります。

当院の狭窄症例を示します。


この方はまだPTAを行っていませんが、近い将来PTAが必要であると考えられます。もし、4mm側を挿入していたら、この方は術後3ヵ月でPTAになっていたと考えられます。5mmを挿入されていたからこそ、26か月保っていると言えるかと思われます。

余力がないということは狭窄に対しては非常に脆弱で、PTA後も4mmしかないのですぐに狭窄してしまうといういことになっていまいます。

また、透析側からの観点からも静脈圧が上昇しやすい自体が想定されます。

 まとめますと

①流体力学的観点

②PTAでのバルーンサイズ

③狭窄の余力

の観点から


6mm-4mmテーパードグラフトの逆接続は安易に行うべきではない

ということになります。

そもそも人工血管メーカーもテーパードグラフトの逆接続は推奨していません。

人工血管が挿入できなければ通常の接続にすることが基本かと考えます。

④人工血管の材質

PU か ePTFE のどちらがよいかについては結論は出ていません。

いまのところの印象ではePTFEの方が挿入しやすく、臨床的に大きな差もなさそうですので、ePTFEの選択でよいかと思われます。

まとめ

•GIV法によるグラフト移植術は静脈側吻合部の開存性の観点から積極的に適応すべきである

•現時点では、当院の症例からの狭窄パターン、流体力学的観点からは使用する人工血管は5mmのストレートタイプが望ましい

•グラフトの材質については更に検討の余地がある

現状、当院の人工血管の手術では出来るだけ積極的にGIV法(5mm ePTFE ストレートタイプ)をとるようにしています。

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