先ず、インクリメンタルPDより始めよ(実践編)~医療者向け~

長らく更新が途絶えておりました。3月〜4月は異動の時期も重なり何かと忙しくしておりました。

今回は、前回の先ずインクリメンタルPDより始めよの続きの実践編ということになります。

インクリメンタルPDから開始するポイントです

•インクリメンタルPDを第3の利尿薬として利用する

•1日1バック交換からスタートするので、患者さんおよび医療者側の負担も少ない

インクリメンタルPDを第三の利尿薬として利用する

PDを第3の利尿薬として位置付けることから始めましょう。なぜ第3という3番目なのか?ということは若干どうでもよいことになりますので今回は並べるだけとさせていただきます。

第一の利尿薬としては、所謂ループ利尿薬(フロセミドやアゾセミド、トラセミドなど)

第二の利尿薬としては、トルバプタン(サムスカ)やスピロノラクトン(アルダクトン)

第三の利尿薬としては、腹膜透析(ブドウ糖液やイコデキストリン液)

を指しています。

腹膜透析(インクリメンタルPD)を第三の利尿薬として用いる適応は明示されていませんが、一般的に拡張障害や収縮障害、弁膜症などにより心不全がコントロールできず、血液透析導入をされる方と同じ位置づけと考えても良いかと思います。

・極量近くの利尿薬を使用しても心不全が改善せず、入退院を繰り返す

所謂、利尿不全の状態になります。心腎連関症候群が注目されていますが、基本的に、循環器領域でもコントロール不良な慢性腎不全はほとんどの例で慢性腎不全を合併していて、循環器の先生方にとっても腎不全は切っても切れない縁があるかと思います。

当方も、院内や近隣の総合病院の循環器の先生方から、「Creは低い(とはいっても2~3程度ある)のだが、利尿薬極量まで使っても利尿不全が改善せず、心不全入院を繰り返してしまう」といった相談を多く受けています。

その際に第3の利尿薬として腹膜透析を適応することが、医療者にとっても患者さんにとっても負担の少ない透析方法ではないかと考えられます。

1日1バック交換で

1.5%ブドウ糖液(4-6時間貯留)で100-200ml除水

2.5%ブドウ糖液(4-6時間貯留)で200-400ml除水

イコデキストリン液を6時間〜12時間貯留で調整することで300-700ml除水

上記の3つの液と貯留時間を患者さんごとに調整することで、患者さんにとってちょうど良い除水量を得られるかと考えられます。

もちろん、インクリメンタルPDで開始しているので、自尿も出ているわけです。1日700mlの除水を1週間毎日行った時は単純な計算にはなりますが、1週間に5kg程度除水が得られることになります。

(もちろん、自尿もその除水に合わせて変化してしまうため、単純計算とはいかないこともあります)。

利尿不全に対する、利尿薬と比較してのPD除水のメリット

●利尿薬と比較した場合のPD除水のメリット●
①神経体液性因子の賦活化が比較的低い可能性
②残腎機能の保全
③有害メディエーターの除去

●その他のメリット●
溶質除去を行う必要性が乏しいため、交換回数が僅か

①や②は言わずもがなかと思われます。

③の有害メディエーターの除去はどこまで役に立っているかは明らかにはなっていませんが、そういった作用もしくは利尿薬ではなしえない作用がある例があります。

有害メディエーターとしては、 尿酸塩、ANP、TNFα、IL6、myocardial depressant factor、MCP1 などが過去の研究にて挙げられています。

慢性心不全(心腎連関症候群)で利尿薬が極量投与されている患者さんに、利尿アシストとして、1.5%ブドウ糖液でインクリメンタルPDを開始したところ、除水ゼロ(注入液量と廃液量が同じ)であるにも関わらず、心不全が改善するという経験をすることがあります。

メディエーターの除去が関与しているわけではないかもしれませんが、このようなことを目の当たりにすると、利尿不全に対して、医療者側が期待と希望を持てるような経験になるかもしれません。

インクメンタルPDで開始する患者さん側のメリット

患者さん側のメリットとしては、

利尿不全でも今まで通り血液透析を導入されていた場合、ある日突然、週3回の血液透析を始めることになり、僅か2~3年ほどで自尿は喪失(ほとんど出なくなる)することになり、慢性心不全の利尿不全で血液透析を導入したつもりが、2年程度後に自尿が出なくなり、より心臓に負担がかかるという矛盾を生じることになります(血液透析毎に2-4kg程度の体重増加とその除水は心臓に負担をかけることになります)。

また、1日1回のバック交換でしばらく済むため、患者さんの負担も少ないと考えられます(当院でも月1回程度の通院で済んでいます)

・自尿が維持される+血液透析のような急激な除水ではないため、心臓に負担がかかりにくい

・患者さんの通院や操作負担が少ない

最近では、循環器内科の先生方から、腹膜透析が向いているというご紹介を受けるようになってきています。

利尿不全へのインクリメンタルPDで開始する診療を行う医療者側のメリット

医療者側のメリットとしては

・しばらくの間、主に体液バランスのみに注意を払うことができる

・腹膜透析の管理は

カテーテル出口部管理、カテーテル位置異常、廃液困難

患者教育(食事・塩分・水分など)

利尿薬の調整

降リン薬、二次性副甲状腺機能亢進

貧血(造血剤、鉄剤)

透析液の調整

など、多岐にわたるため、初期から全部を把握することは難しいですが、しばらくの間、体液バランスのみに注意を払うことで診療できるため、医療者側としてもメリットは大きいと考えられます。

実際の例

70代女性。Cre2程度。慢性心不全で総合病院循環器内科通院中。利尿薬はほぼ極量の状態で、心不全入院を年4回程度繰り返すため、当院紹介となりました。

インクリメンタルPDを導入後の経過を図にまとめます。

今現在、導入から10か月程度経過していますが、1日1回の交換で心不全は十分コントロールできています。

さいごに

簡単ではありますが、先ずインクリメンタルPDから始めることで、医療者側にとっても患者さん側にとっても、とっても大きなメリットがあるかと思い、ご理解していただければと思っています。

今後、開業医の先生方とも連携して、腹膜透析の診療も行っていければと思っています。

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