腸の菌と腎臓 ③

腸の菌と腎臓② からの続きになります。

少し話は逸れますが、ヘリコバクターピロリという有名な菌はご存知かと思います。

ピロリ菌感染症も胃がんやMALTリンパ腫、ITP(血小板減少性紫斑病)以外にも虚血性心疾患、2型糖尿病(インスリン抵抗性)、貧血(鉄利用障害等)、炎症性腸疾患、肥満、認知症等にも全身性の炎症を介して関連していると考えられています。

ピロリ菌の存在自体が腸の細菌叢に影響を与える可能性も示唆されており、こうなってくると様々な要因がある中で、大きな関連の一部を形成してるのに過ぎないのかなとも思ってしまいます。こうして考えてみますと、人間は菌にとって大きなタワーマンションのような存在で、その住人である菌はその住み心地や周りの菌によって影響を受けて、影響を与えているのでしょう。

 

話を戻して、なぜ、悪玉菌が増えていくのかは完全には分かっていませんが、腎不全進行によるアシドーシス(体が酸性になってしまうことです)、尿毒症物質の貯留、カリウム吸着剤や鉄剤、栄養状態の悪化、高度便秘などがリスクと考えられています。

CKDで腸内細菌叢が変化していく解釈モデルとしては

  • CKDでは血中の尿素が上昇→消化管内に尿素が多くなる→腸内細菌のウレアーゼによってアンモニアに分解→水酸化アンモニウム→pHの上昇→細菌叢変化や腸炎
  • 細菌が取り込んでいた消化しにくい複合炭水化物→腸管内の尿素や尿酸が増える→複合炭水化物の代わりに尿酸や尿素が取り込まれてしまう→消化しにくい炭水化物が残る
  • カリウム制限することで、食物繊維の不足→食物繊維を原料として細菌が作り出す短鎖脂肪酸の低下→腸管上皮細胞やreguratory T cellの活性低下→腎臓の酸化ストレスや炎症反応上昇

上記による環境変化が考えられています。

そして、腸内環境の変化を通じて、後述するように尿毒症物質の産生が上昇し、影響を及ぼすと考えられています。

上記までを極端に簡単にまとめますと

腎不全→腸内環境悪化→腎のダメージがさらに増す→腸内環境が更に悪化→腸内環境悪化→腎臓のダメージさらに増す

 

という可能性も少なからずあるかと思います。ただ、これ自体が本質的に腎臓を悪化させている原因のナンバーワンではなく、悪化する環境を作っているという理解の方がよいかもしれません。

 

 

腸内細菌と腎臓をつなぐものとして、腸内細菌が蛋白を分解する過程で作り出す物質が問題と考えられました。それが腸内細菌由来の尿毒症物質ということになります。

 

尿毒症物質は腎機能が低下したときに蓄積し、ある程度蓄積した場合に何らかの支障が生じる物質と考えられています。現在では尿毒症物質がたまりすぎるとそれ自体が腎臓機能の悪化をもたらすことがわかっています。

 

 

東北大学の阿部先生のグループがマウスモデルを用いて

・腸内細菌叢によって生成される尿毒素物質を同定(無菌マウスを用いて)

・腸内細菌叢由来の尿毒素物質が以下の3つに分けられること

100%腸内細菌叢から作られるもの

腸内細菌叢と宿主の代謝由来のもの

腸内細菌の代謝と食事成分からのもの

・腸内細菌の作り出す物質が、腎臓に対して正負の2面性を持っていること(無菌マウスは尿毒素物質も減るが腎機能も悪化しやすいことから、腸内細菌叢が作った短鎖脂肪酸やアミノ酸の利用率アップなどにより腎臓に保護的に働く可能性を示唆)

 

というとても将来ためになる研究成果を発表されております。

これはどういうことを表しているのかというと・・・

腸の菌と腎臓④ ~腸内環境改善のための治療戦略~ へ続きます。

 

 

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