インクリメンタルPDとは?
インクリメンタルとは「次第に増加する」という意味があります。
インクリメンタルPDとは、一般的には1日2回程度のバック交換から始める腹膜透析ということをいいます。
腹膜透析の説明書を読んでいただくと、1日3回~4回の説明で書かれているものが多いかと思います。
インクリメンタルPDとは、その時の腎機能に合わせて、必要最小限のバック交換数で開始する腹膜透析のことをいいます。
さすがに、腹膜透析を始めて、いきなり1日3回とか4回のバック交換をするっていうのは抵抗があると思います。

結局何をやっているのかと言いますと、腎機能に合わせてバック交換の回数、腹膜透析液貯留時間、透析液のブドウ糖濃度等を調整していくことを行っていくということになります。
インターネットで、インクリメンタルPDの説明のページをみますと、「初期の段階は、1日2回からスタートする」と書いてあることが多いかと思います。
私は1日1回からのミニマムなインクリメンタルPDもトライしています。超高齢化を迎えて、食事摂取量等を考慮すると、1日1回からスタートしても十分に症状改善できる方々が増えていると考えています。
1日1回の液の交換のインクリメンタルPDは
・高齢の方の腹膜透析導入初期
・利尿不全タイプの腎不全(心腎連関症候群などの慢性心不全をお持ちの方、怠さなどよりも浮腫みが出るタイプの慢性腎不全の方)
に有用と考えられます。
基本的に75歳以上の方は腎代替療法を腹膜透析で開始された場合には腹膜透析のまま(血液透析に移行せずに)天寿を全うできる可能性が高いと考えられます。
とくに、2018年7月より使用可能になったバクスター社製の「かぐや」という夜間APDの機器が使用できるようになったことから、ますます選択肢が広がったものと考えられます。
夜間寝ている間に透析を自動でやってくれる「かぐや」という機械について簡単に説明

この装置は非常に優秀です。また後日詳細をお伝えしようと思います。
簡単にこの「かぐや」という装置のメリット挙げます
・画面が大きいので見やすい
・操作方法が毎回画面で説明されるので忘れても大丈夫
・患者さん負担なしでインターネット(クラウド:シェアソース)に携帯電話の電波を通じて接続されており、医療者が治療経過を毎日チェックできる
というメリットがあります。
実際の詳細や治療画面、治療パターンの設定などはまた後日、、、とにかく毎日の除水量や患者さんの入力した体重や血圧がインターネット、スマホで簡単にチェックできます。
ということは、患者さんに異常があれば早期にこちらから電話することも出来てしまいます。千葉病院では2019年1月現在、カグヤ10台が稼働しています。

実際の患者さんの実例
千葉病院で私が行っているインクリメンタルPD(1日1回)の例をご紹介したいと思います。
70代女性の方で、Cre3.5付近と、腎不全としてはまだまだ進行していないという印象の方です。腎臓の機能としては溶質除去(体に溜まったゴミを取り除く)の機能は保たれていましたが、利尿不全(水分や塩分を出す機能が損なわれる)がメインの腎臓の状況でした。
利尿薬といって、経口の内服のお薬(トルバプタン、フロセミド、アゾセミド)はたくさん使われていましたが1年に4〜5回も心不全入院(水が体の外に出せなくなって肺に水が溜まり、呼吸が苦しくなる)を繰り返していたため、入院回避には透析が必要ではないかということで紹介となりました。
腎代替療法選択の説明を行ったところ、家庭で出来る腹膜透析を希望され、予定入院(2週間)で手術から腹膜透析導入、家での自分で行う作業を覚える、カテーテルのケアの仕方などを行いました。
インクリメンタルPDとし、当初は少し濃い液(液の種類については後日ご説明しますが、除水を少し多めにするために2番目にブドウ糖濃度が濃い液を使用する予定)で、1日最小の1バック交換で1回4時間貯留(前後の注液と廃液の時間も合わせると合計5時間程度。途中の4時間は何してても良く、注液10分と廃液20分はご自身で操作する必要があります)の導入を考えていました。
しかし、一番薄い1.5%ブドウ糖液で十分胸水が消失し、心臓負荷の値(BNPと言います)が1000pg/ml以上と非常に高値であったものが、200pg/ml台まで低下しました。
おまけに、内服で飲んでいた利尿薬の量も減量することが出来ました。
導入して、まだ数ヶ月ですが、一度も入院することなく、食欲も旺盛で食べ過ぎるくらい元気になり、ご自身の足で月1回の通院が出来ています(PD導入前は3か月に1回入院し、食欲もずっとなかった)。
同じような方が2018年4月〜9月の間に千葉病院でもう一名おり、その方も全く同じような経過をたどっています(BNPが3000〜4000ng/mlだったのが、400pg/mlまで低下し、胸水もなくなり、パンパンに張っていた心臓も正常の大きさ近くに戻っています)。
この2人の方がもし血液透析を選ばれていたとしたら、恐らく自尿は2年程度でなくなり、当初3時間×週1回で除水メインの低効率透析を導入していたとしても、半年~1年後には3時間×週2回、2年後には3時間×週3回になっていたと思われます。
実際に同じようなシチュエーションで週1回から導入した方はそのようになっています。
腹膜透析による除水(利尿のようなこと)は血液透析よりも心臓に対しては影響が少ないと考えられます。身体にマイルドな治療ということになるかと思います。
こういった利尿不全のタイプの方々では溶質除去は、しっかり保たれている場合が多いので、上の方々の腹膜透析恐らく、2年経過しても1日1回で十分な可能性が高いと思われます。もちろん、腹膜透析液は1.5%ブドウ糖→2.5%ブドウ糖→イコデキストリン液と変更していくことにはなると思いますが1日1回でも十分と考えられます。
利尿不全タイプの腎不全では
腹膜透析液はいくつか種類があるため、利尿が不足してきたら透析液を交換することで、比較的長い間1日1回のバック交換のインクリメンタルPDを継続することが出来ると考えられます。
このことは「透析と残腎機能」という項目で再度まとめてみたいと思います。
重要なことは、繰り返しになりますが、療法選択は血液透析や腹膜透析がどちらが良いということはなく、その時の病態や認知機能、活動性などを考慮し、一緒に時間をかけて考える必要があると思われます。
インクリメンタルPDについては
もご参照ください。
先生のブログを拝見しまして、腹膜透析の事がよく理解できました。
有難うございました。
夫は今この透析を始めるべく入院中ですが、これで私も安心して退院を待ちたいと思いました。
お忙しい中での更新はさぞかしご苦労な事と存じますが、高齢の私にとりましても、頼りになるありがたい指導書になりそうです。
日曜日の講演会もとても楽しみにしております。
Nさんご訪問誠にありがとうございます。
ありがたいお言葉本当にありがとうございます。
基本的に「自分の両親だったらこうする」という意気込みで日々診療しています。
こまめに更新していきたいと考えておりますのでブログの方もまたよろしくお願い致します。