腎不全の診断・治療での「腎生検のできる」腎臓専門施設受診の必要性

腎臓専門施設の役割は?

今回は、腎臓専門施設の役割について考えてみたいと思います

腎不全保存期の治療で、開業医の先生方と総合病院の腎臓内科が連携するメリットはあるのか?

という質問が寄せられており、それに対する私なりの考えをまとめさせていただきました。

基本的には患者さん、開業医の先生方、全てにメリットがなければならないと考えています。

2点あると考えています

腎臓専門施設の役割は

(1)腎臓の機能を守ること

(2)患者さんが調子を悪くした際のバックアップ

があると考えています。

 

(1)腎臓専門施設の役割は腎臓の機能を守ること(基本診療)

まず、腎臓専門施設ならではの診療内容は

①腎臓が悪くなっている原因を多面的に判断し、治療介入の余地がないかどうかを調べる

②栄養指導を細かく行う(蛋白制限は制限ではなく蛋白選択の時代。そして便秘にも栄養指導が重要)

③体の水バランスの管理を細かく行う

にあると考えています。

大まかに上記3つを行うことで、腎臓の機能を守ることになります(②は塩分制限等もっと細かいことも含め)。

 


①腎臓が悪くなっている原因を多面的に判断し、治療介入の余地がないかどうかを調べる

たとえ現時点で腎臓が悪くなっていたとしても原因の推定と原因検索は非常に重要です。腎臓が悪くなっている原因が、長年の高血圧なのか、糖尿病が原因なのか、それとも昔診断されたIgA腎症が原因なのか。

本当にその原因で説明がつくのか?

ということを患者さんはもとより、診察している医師側も納得できなければなりません

そのためには、尿検査を行い、尿蛋白の程度を調べたり、尿沈査で円柱と呼ばれる物質が出来ていないか、尿潜血が出てないか、また、尿蛋白の定量(量を測定する検査)と尿蛋白の定性試験(紙で判断する検査)に乖離がないかどうか、尿細管に異常がある際に出てくる尿蛋白の種類を測定する必要があります。

血液検査では、慢性糸球体腎炎の可能性についての検査はもちろんのこと、最近少しずつ増加傾向にあるのが、血液疾患(多発性骨髄腫やマクログロブリン血症、骨髄増殖性疾患)による腎障害(腎臓が悪くなる)に対する検査も必要です。一般的な尿検査(紙による検査)では分からない場合もあり、血液検査を要します。

そして、腹部CT検査などの画像検査で、腎臓の大きさや水腎症(尿が流れにくくなって腎機能が落ちていないか?)、一緒に撮影されてくる大動脈の状態から動脈硬化の具合を評価したりする必要があります。

タバコ歴、高血圧や糖尿病の既往(もちろん既往や家族歴、低出生体重児であったかなど細かいこと)などと上記の尿検査、血液検査、画像検査(CT)を総合して原因を推定します。

総合的に腎生検を行う必要があるかどうかについて検討することになります。

細かいポイントはいくつもあり、例えを挙げればきりがないということになりますが、例えば、糖尿病網膜症があり、糖尿病性腎症と以前は考えられていた方でも,膜性腎症を合併していたという症例も提示しているように存在します。

膜性腎症(糖尿病性腎症合併)~DMでもネフローゼなら要注意~

糖尿病や高血圧の新しい薬が出現し、治療方法が改善され、さらに長寿化という側面も加わり、DKDという概念が生まれてくることになりました。DKDを基本タームとして認識すると、今までは糖尿病が原因だろうと推定して腎生検を行わなかった方も、より腎生検を行うかどうかをシビアに決定していく必要があると考えられます

少なくとも、糖尿病があるからといって「糖尿病が原因で腎臓が悪いですね。」と簡単に言えない時代となってきました。

DKDについては後日説明いたします。

 


②栄養指導を細かく行う(蛋白制限は蛋白制限ではなく蛋白選択の時代に。便秘の管理にも栄養指導必要)

蛋白制限についてはとても今回のことでまとめることは不可能ですので後日まとめます。

栄養指導は基本的に蛋白制限と塩分制限と考えられてきました。しかし、昨今、サルコペニアやフレイルという全身の体力低下(筋力低下)によりさまざまな弊害が出てくることがクローズアップされてきています。

真面目な患者さんが蛋白制限を真面目にやりすぎてしまったことにより、寝たきりになってしまっては元も子もありません(見かけのCreが上がらないだけで、全身の筋力が落ちてしまったなんてことはあってはなりません)。

蛋白制限については世界的に見てもその是非については議論されている状況で、本当の真の答えはない(人それぞれ)のではないかと考えています。

そもそも、30歳、50歳、70歳、90歳の方に同じ量(体重当たり同じ量)の蛋白制限を行うということ自体が間違っていると思われます。消化管の吸収の機能は年齢に応じて下がると思われるのに同じで良いはずがないと思われます。

「透析になりませんでした、でも寝たきりになりました。」が良いはずはなく、何のために、何を目標に生きてきたのでしょうか?と自問自答することになります。

「蛋白制限は制限することではなく蛋白選択の時代に入っている」と考えています。

その蛋白選択はやはり専門的知識を有する栄養士の先生の指導がなければ難しいものと考えています。

そのためには、やはり沢山の経験を持った栄養士が在籍する専門施設での受診が必要であると考えられます。

便秘に関しても、腸と腎臓の治療治療でまとめたように、栄養士の先生方の間でもかなり話題となってきている事項ですので、医師よりもより深く、詳しいと考えられます。

腸の菌と腎臓④~治療方針~

 


③体の水バランスの管理

水の管理は腎不全の管理において非常に重要と考えられます。

これを間違うと、腎臓の機能が悪化する原因を作り出してしまうからです。

大きく分けると以下の2つになります

・利尿薬を使いすぎてカラカラにすると腎臓が悪くなる

・利尿薬が不足して浮腫みや胸水(一般的に肺に水がたまると言われます)が出てくると危険になったり、またそれにより尿がより出なくなったり、腎臓の機能が悪化したりすることがある

水の管理は本当に難しく、心臓の専門家(循環器内科)の力が必要になることが多々あります。

最近、心腎連関症候群といい、

・心臓が悪くなると腎臓もつられて悪くなる

・腎臓が悪くなると心臓もつられて悪くなる

といったことが注目されており、腎臓専門施設には心臓専門の医師が必要となっています。「腎臓内科にかかってください」と言われたときに病院を探すときに、循環器内科があるかどうかで病院を選択する基準にもなるかと思います。

また、糖尿病の患者さんは高率に冠動脈(心臓を栄養する血管)の問題を認めるため、より循環器内科の有無が重要になってくると思われます。(注:心筋梗塞なども冠動脈の問題で発生します。)

 

水の管理は非常に難しいことや、最近ではトルバプタン(サムスカ)という腎機能に悪影響を起こしにくい利尿薬も注目されてきていることもあり、そういった意味でも腎臓専門施設での併診ということが望ましいと考えられます。

ちなみにトルバプタン(サムスカ)は入院で開始しないといけない薬であり、どうしても入院施設のある病院での導入・開始となってしまいます。

 

 

(2)腎臓専門施設の役割は患者さんが調子を悪くした際のバックアップ

腎不全を患っている患者さんでも、免疫低下から肺炎や尿路感染症などの細菌感染症で入院が必要になる場合があります。

その際には、やはり併診していれば入院もスムーズになり、治療も早くなり、患者さんにメリットがあると考えられます。

入院が必要かどうか迷う場合にも気軽に相談できるような開業医の先生と病院勤務医の関係が患者さんにとって非常に良いことにつながることは言うまでもないかと考えられます。

・患者さんの治療をスムーズにでき、安心感がある

・開業医の先生方も受け入れ病院探しがスムーズになる

といったメリットがあるかと考えています。

 

また、Acute on chronicといい、慢性腎不全を抱えていると、肺炎やインフルエンザなどで、一時的に腎機能が悪化し、一時的に透析が必要になる場合もあります。

そういったときも、開業医の先生と併診を行っていればスムーズに入院治療が行えます。

また、Acute on chronicなのに、「そのまま透析継続になってしまった・・・」ということも少なくなるかと思います。

Acute on chronicでは全力で透析の一旦離脱を目指すことが本来は必要であると考えています。肺炎などの感染症や原因が治療されれば一旦は透析離脱できる場合が多いからです。離脱を目指さないと患者さんはある日突然透析をスタートし、そのまま維持透析に移行してしまうこととなってしまいます。

 

病診連携のメリット

開業医の先生方と腎臓専門施設が連携(併診)することで、患者さんや開業医の先生方のメリットは計り知れないものがあるかと考えています。

考え方としては適切な役割分担だと考えます。

そういった連携が取れてくれば、少しでも腎臓の悪化を先延ばしにでき、患者さんにとってもとても喜ばしいことになると考えています。

今、腎不全で通院中の患者さんにとっても、良い出会いに繋がるきっかけになればと願っています。

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